おりがみのおりがみ

映画が好きと堂々とは言えない程度

【ネタバレ】インド映画「ピンク」の感想。何があってもNOがNOであるということ。

インド映画「ピンク」の弁護士ディパーク・サフガル役のアミターブ・バッチャン
 

こんにちは。
女性の皆さん最近苦しくないですか。
インターネットの中だけでなく社会全体に蔓延している性差別にとにかく胸が締め付けられるような思いです。生きづらいとか、そんなレベルではなくなってきています。
狂ったムードに立ち向かうべく、今回はインドの映画「ピンク」(英題 : Pink)をご紹介したいと思います。

 あらすじ - ピンク

ミナール、ファラクアンドレアの3人は男性グループに誘われコンサートへ行きます。その夜、男性グループの一人であるラジヴィールにコテージへ招かれたミナールは性的暴行を受けそうになり、彼の頭を瓶で殴ってしまいます。正当防衛を主張する3人ですが、男性側は殴られたこちら側が被害者だと主張し裁判はもつれにもつれていきます。

 

 登場人物 - ピンク

監督 – アニラダ・ロイ・チョードゥリー
ディーパク・サフガル –  アミターブ・バッチャン
ミナール –  タープスィー・パンヌー
ファラク –  キールティ・クルハーリー
アンドレア –  アンドレア・タリアン

 

以降詳しめに内容に触れています。ネタバレダメな方お気をつけください!

 

 

卑劣な嫌がらせ - ピンク

事が起きてから、ミナールはほとんど放心状態になってしまいます。鏡で返り血を拭き取っているときの彼女のどこを見ているのかわからないような表情が印象的です。
犯人グループは三人の住むシェアハウスへよからぬ噂を流します。さらには家主を襲い、三人を家から追い出すように脅します。
ここまでを見ると、犯人グループたちは自分の罪を消したいのなら何でことを荒立てるようなことをするのかわからないですよね?ここから犯人の心理の恐ろしいところが見え始めています。
そう、彼らは罪を罪と思っていないのです。
全く悪いことをしたとは思っておらず、逆に殴られたことへの怒りで被害者面をしています。女のくせになんてことをするんだ許せないという、自分のプライドやメンツばかり気にしている残念な男性心理に嫌気がさします。

 

犯人だけでなく登場する人々から溢れ出る偏見の眼差し - ピンク

三人は犯人からの攻撃だけでなく、周囲からも間接的に攻撃されてしまいます。そもそも男性とコテージにいくのが軽率な行動だった、部屋で男と飲んだりするのが悪い、と被害を受けた側なのに行動を責められてしまいます。この辺りはリアルすぎて心が痛いです。また警察もフェミニストが大騒ぎすると、面倒な口調で話しているのが絶望的です。
いや、これまさに今の日本やんけ…
ことを荒立てるとまたこういった偏見に晒され二次被害を受け続けるとわかっているファラクは、何とか示談に持って行こうとしますが、友人を侮辱する言葉を受け我慢ならず示談交渉は決裂します。
この後も犯人グループは半端なく胸糞悪い脅し方をしてきてだいぶ精神がやられるのですが、耐えてください…フィクションである事が救いです。

 

裁判で受ける二次被害 - ピンク

この映画の特徴は問題の被害を受けた当時のシーンがなく、視聴者は登場人物の発言や、裁判での議論を元に想像していくしかないのですが、この証言によっても様々な女性への偏見が浮き彫りになり、被害者をさらに誹謗中傷するような方向へ向かっていきます。
それでまた主犯格であるラジヴィールの家系の利権とかも絡んでくるので裁判はどんどんもつれていきます。
相手の弁護士が事件と関係のない部分で被害者たちの生活を取り上げ、「軽率な女」という風に捉えられるようにイメージを植えつけていきます。このやり方は本当に汚い…。こいつがまじで白っ々しい演技をガツガツ入れてくるんですが、ここは弁護士のアミターブ・バッチャンが「随分大げさな演技ですね」という感じでガンガン斬っていくのでいいですね。

誰が何と言おうがNOはNO - ピンク

後半にかけてミナールの人格にスポットが当たります。アミターブ・バッチャンがミナールに対してなぜか初体験のことを色々ききます。字面だけ見るとかなりのセクハラですが、ここからのシーンが本当に迫力あるのでぜひ見て欲しいです。
ミナールが今まで何人の男性と寝たか、なんて関係ありません。
あの晩、彼女ははっきりと「NO」といって拒否した、という事実があれば、他に何がいるのでしょうか。
友人であっても知人であっても、性労働者であっても、自分の妻であっても、「NO」は「NO」なのです。

可哀想なのは男性だという皮肉 - ピンク

とにかく裁判のシーンではアミターブ・バッチャンの気迫がすごいです。
彼が唱えた女性の安全マニュアルが素晴らしすぎるので引用させていただきます。

女性の安全マニュアル

・どんな時でも女性は男性と二人きりになるな

なぜなら周囲は彼女が喜んでそうしたと誤解するから
まるでそれで彼女を触る権利を得たかのように思うから

 

・女性は笑いながら男性に話しかけたり触ってはならない

男はそれをヒントだと思う
男は笑顔を"イエス"だと思い、笑顔が彼女の人間性を失わせる


・女は男と酒を飲んではならない

なぜなら女が男と酒を飲むと男は彼女と性的関係を持てると誤解するから
これは女性だけで男性には当てはまらない


全部社会が女性に貼ったレッテルに対する皮肉なんですけどね…!!
文字に起こしてみるとこんなおかしいことあるか??という感じですね。

そんな頭のおかしい男性を救えば女性の安全は確保されるのだろう!っとこれまたすごい皮肉で答弁を締めくくります。

 

味方をしてくれる男性たちの存在にも救われる - ピンク

「男性は悪!!」っていう映画ではないんですよ。
あくまで性による差別に立ち向かうというお話です。
ヒロイン三人の力強い正義感ともさることながら、アミターブ・バッチャン演じる弁護士のディーパクや、三人の住むシェアハウスの大家さんなど、彼女らの味方になってくれる男性たちの存在に希望を見いだす事ができます。

 

同意のない性行為は犯罪であるという当たり前のことを再確認させてくれる映画 - ピンク

ここのところ日本では男性が女性に対して性的暴行を働いても許される事例が多発しています。
被害者のことを思うと、もうどうしていいかわからなくなります。
そして自分がそんなめにあったとしたら、自分の不注意自己責任という風に片付けられてしまうのではないかと思うと、自分は何のために生きているのだろうか、自分は果たして本当に人間という名目で生まれてきたのだろうかという疑問に直面しています。そしてこういうことを発信するだけでまた責められるという無限ループがあります。当たり前のことを当たり前に唱えることは、そんなに責められることなのでしょうか。
インドは変わろうとしています。日本も変わることはできないのでしょうか。
本作は同意のない性行為は絶対的な犯罪で、ましてや意思表示ができないほどの状態に陥っている時に行為に及ぶなんて言語道断だということを再確認できる名作です。