おりがみのおりがみ

映画が好きと堂々とは言えない程度

日本映画『名前』の感想。女子高生と中年オヤジの奇怪な関係。綺麗事を、最後まで綺麗なままで。

ずっと気になっていた映画『名前』。

劇場公開中に見よう見ようと思っていても近所の映画館でなかなか公開日がきまらず、結局ぼーっと日々を過ごしているうちにいつの間にか上映が終わってしまっていました。無念。

 

しかし、ふらっと立ち寄ったTSUTAYAの新作コーナーに並んでいるのを見つけ、再開を果たしました。

 

とにかく久々に津田寛治の演技がみたい、というのと、メインビジュアルから溢れ出す津田寛治の哀愁に惹かれて、新作だからちょっと高いけどレンタル。

 

そしたら大当たり。こういう規模の小さい邦画が好きなんだよなあ。



あらすじ -名前

 自分の名前を捨て、職場や友人の間で偽名を使い、あらゆる嘘をつきながら生きている正男。ある日、正男は自分の妻が病院に入院しているという嘘が職場にばれそうになります。そこに、中村の娘だと名乗る女子高生・笑子が職場にあらわれ、正男の嘘をフォローします。何者か、なぜ正男を知っているのかは不明ですが、二人はだんだんと親密になっていきます。

 

登場人物 -名前 

中村正男 - 津田寛治

葉山笑子 - 駒井蓮

榎本翔矢 - 勧修寺保都

小幡理帆 - 松本穂香

高野祐衣 - 内田理央

門孝一 - 池田良

亜未 - 木嶋のりこ

香苗 - 筒井真理子

河西遥香 - 金澤美穂

森本 - 波岡一喜

野口 - 川瀬陽太

槙田 - 田村泰二郎

 

以降ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

女子高生と中年男性の奇妙な関係 -名前

正男と笑子、この二人が本当はどういう関係なのか?という点が最後までぼやかされ、それを追っていくというストーリーにはなっているものの、この映画の魅力はむしろその軸を追うに連れて見えてくる人間ドラマだと感じます。

はじめは正男が偽名を使って暮らす理由なども明らかにされず、笑子の正体もわからないままです。後半に連れてだんだんと二人の家族関係や過去が明らかになっていき、二人は生身の人間感を増していきます。

出会って間もないのに仲睦まじく擬似親子のように接する二人を見ていると、ああ孤独を抱えた人間はこんなにも純粋なのかと、お互い人の温かさを求めていたという感じなんですね。ここで変な恋愛要素が入ってきたりしないのもいいなあと見ていました。

  

津田寛治

 

夢と現実の間のような世界 -名前

映像表現も幻想的で面白いシーンがたくさんあります。

笑子が初めて正男の家を訪ねた時に、正男の恋人が散らかしていったゴミにホースで水をかけるというシーンがあるのですが、実はこのシーンの意味はよくわかりませんでした。。。

でもなんか笑子がキラキラして心が解放されているようで印象的でした。

この他にも現実的に考えたらん?という要素が点在していてそれも理屈っぽくなりすぎない演出みたいなことなのかな?と不可解ながら楽しんでいました。

たとえば笑子が正男を訪ねてきた時、最初は船で来たような気がしていたんですが帰りは電車で帰っていたり、まあ別にそういうこともあるとは思うので別にいいんですが。

ただでさえ説明の少ない映画なので、そういうところはわかりやすくてもいいのかなあと思いつつ、でももしかすると一つ一つのシーンを観客を誘導する手段として捉えないという方針なのかもしれません。そんなことより撮りたいものを撮る、みたいな、わかりませんが。

 

純真な登場人物たちがぶつかっていく -名前

この作品は綺麗事を綺麗なまま貫いていくということをずっとしていると感じます。そこが潔くて、どんな映画トリックもまっすぐな人間には敵わないんだということを教えてくれます。主役二人もですがそのほかの登場人物もやたらとまっすぐで純粋でなんかいいんですよね。

特に笑子の同級生の榎本のキャラクターは、この映画で一番笑うところかもしれません。

榎本は笑子のことが好きになってしまい、思いをつ耐えるのですが、告白の仕方がほぼ『学校へ行こう!』でしたね。

 

学校ではニコニコして弱みを見せない笑子でしたが、榎本や友人の理帆、そして演劇部での人間関係によって自分の中の何かがゆらいでいきます。

笑子もまた、正男のように本物の自分を隠していきていることに気がつきます。

 

ずっと自分を偽るのはしんどいのかもしれない-名前

ずっとありのままの自分をさらけ出して生きるなんていうのは無理でしょう。

上司の前ではいい顔するし、部下の前では気を張ってないと舐められる。

でも本当の自分を誰にも見せることができないってなるとまあまあしんどいのかもしれません。

いや当たり前やろが!!!と思われるかもしれませんが、正男や笑子はその当たり前を見失っちゃってたんでしょうね。現代人にはそんな人がたくさんいそうです。

自分を大事にしなきゃいけないのに大事に仕方がわからない、そんな時は本作のように他人と出会ってみるのもいいのかもしれません。

 

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【ネタバレ】アメリカ映画「ディザスター・アーティスト」の感想。なんという味わい深いカルト映画…の裏側。

 

 

 

こっちの方すっかり更新してませんでした。今後も不定期になりそうです。
最近はいだてんを最初から一気見してたのですが映画の方もそこそこ見ていました。

その中でも特に面白かったのが先日見たアメリカ映画の「ディザスター・アーティスト」。
最初完全にポカーンだったんですけどなにこのじわじわ、最終的に爆笑してました。

 あらすじ - ディザスター・アーティスト

「史上最低の映画」と呼ばれる『The Room』の制作の裏側を再現したドラマ。演技学校に通うも人前で思ったように演技ができないグレッグ・セステロ。そんな中授業で下手ながらも熱演を披露したトミー・ウィソーに好感を抱いていた。素性は全く謎のトミーだったが二人は共に俳優を目指すために、ロサンゼルスに旅立ち二人暮らしを始める。

 

 登場人物 - ディザスター・アーティスト 

トミー・ウィソー - ジェームズ・フランコ
グレッグ・セステロ - デイヴ・フランコ 
サンディ・シュクレア - セス・ローゲン
フィリップ・ハルディマン - ジョシュ・ハッチャーソン
ダン・ジャンギアン - ザック・エフロン

 

ジェームズ・フランコセス・ローゲン好きなんですよね。しょっちゅうお互いに友情出演とかしてますが今作もそんな感じでしょうか。
今作はセス・ローゲンの経営する制作会社が最初に権利を取得したようです。
デイヴ・フランコジェームズ・フランコの弟だったんですね。この俳優さん初めて見たけどすごいなーと思って出演作品リスト見てみると過去に何作か見てました。。。

 

以降内容に触れています!ネタバレダメな方お気をつけください。

 

 

謎の男トミー・ウィソー - ディザスター・アーティスト

「史上最低の映画」と言われて映画ファンたちから愛され続けている『The Room』の制作の裏側を描いた作品です。最初全く『The Room』のことを知らなかったので、普通の伝記ものだと思っていました。これ冒頭の演出がすごい性格悪い。
今考えてもほんとすごい作品だみたいな!感じでいろんな人ががインタビュー的に語ってるシーンからこの映画は始まります。なんかちょっと変だなとは思いつつも『The Room』てそんな名作なのかー!と思ってました。

ジェームズ・フランコ演じるトミー・ウィソーはちょっと不気味な謎の男で『The Room』の監督兼主演。演技は下手っぽいけどやたらお金を持っている。でも全然映画も知らないし多分年も結構とってる…一体何者なのか。気になりながらもグレッグ・セステロは彼と仲良くなっていきます。

 

映画に出れないなら映画を作ればいい - ディザスター・アーティスト

ロサンゼルスで俳優の仕事を探そうと必死の二人でしたがなかなかうまくいきません。グレッグは俳優事務所のオーディションに受かりますが所属してるだけで仕事は全然来ない。トミーの演技の腕も上がらず、さらに独創的なキャラクターのせいもあってか仕事は来ません。
もうあかん、自分で映画を作ることができればな…と呟くグレッグ。それや!とトミー。でもそんなお金ないよー。いや、お金はあんねん。という。
実績も実力も何にもないけどお金だけは無尽蔵に持ってるから映画を作ることはできる!という思いもしない展開に。トミーが監督兼主演をつとめるとは、やばいにおいがしてきました。
でもインディー映画でも本当にいい作品はたくさんありますし最近でいう「カメラを止めるな!」的な奇跡の一作になったってことかな?トミーは演技は下手だけど脚本の才能はあったのかも!とまだ希望を捨てずに鑑賞。いよいよ映画づくりパートに入っていきます。

 

あかん…静かに破茶滅茶になっていく撮影 - ディザスター・アーティスト

敏腕カメラマンを雇い機材も一流のものをレンタルするのではなく一式購入。オーディションを開いて役者を揃え、『The Room』の撮影準備は順調かのように見えました。
しかし撮影が始まると一転。トミーは尋常じゃないくらい演技ミスをし何時間もテイクを重ねることに…。めっちゃカメラ目線だし棒読みだしそもそも演技以前にセリフを全然覚えられてない…そのくせ他の演者にはめっちゃ厳しい!!セックスシーンではカメラにがっつりお尻を写してドン引きです。そして位置がおかしい、ヘソとセックスしてる!!とみんな仰天。めっちゃお金持ってるのにスタッフに水も与えないし冷房もつけないからみんな体調不良になっていく…。破天荒だけどすごい人じゃなくて、破天荒な勘違いの人だったんだ!とここでやっと理解しました。

 

爆笑のプレミア上映、あかん映画をあかんと言わせない結末 - ディザスター・アーティスト

 なんとか形になってプレミア上映を迎えます。プレミア上映とは関係者向けに本公開より先に上映するやつですね。
映画が始まってみんなえ?何この映画…?とざわざわ。トミーもすっかり自信をなくして外に出ちゃいます。
でもなんかみんなじわじわ面白くなってきちゃうんですね。主人公とヒロインがイチャイチャしてる間に急に謎の男の子が混ざってきたりとか、路上でタキシード姿でフットボール投げ合ったりとか、全てわけがわからない。演技もすごい下手で棒読みで味わい深い。映画が終わるとなぜかみんな爆笑してる?でもとりあえず良かったー!て感じでめでたしでした。こんな感じで「史上最低の映画」は幕を閉じます。

こうして『The Room』は製作陣の狙いとは違ったものの、というか狙っては作れないような爆笑必須のコメディ作品となったのです。駄作をいじり倒して駄作じゃなくすってことをやってのけた『ディザスター・アーティスト』はほんとすごいです。いや駄作は駄作なんだけど、駄作の見方を変えればなんか面白いじゃん、ってことですよね。

こういう考え方ほんといいですよね。そしてこれ本人に怒られないくらいにギリギリ真面目さを保ってる感じもいいです。おもしろがってるけどバカにはしてないというか、いやしてるのか?

 

 

ジェームズ・フランコの完コピ - ディザスター・アーティスト

 最後に『The Room』の本編と、本作の再現との比較映像が流れるんですが、ジェームズ・フランコめちゃくちゃ似せてきてます。変なもったりした喋り方も風貌もトミーにそっくりで感動しました。
痛烈なツッコミ役のセス・ローゲンも良かったし、役者さんもみんな雰囲気似せてきてて良かったです。本家の映像めちゃくちゃ笑ってしまうので、ちゃんとみたいなーと思いつつも、一人で見るよりこんな風にみんなのツッコミありきでみたほうが面白いかもなーとか思ってました。
多分ツボにハマったら一生笑ってるタイプの作品だと思います。

 

ジェームズ・フランコの私的オススメ作品はこちらでみれます。

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調べれば調べるほど面白いトミー - ディザスター・アーティスト

結局トミーの素性は今でも誰にも知られていないとか。どこで生まれたのかなんでそんなにお金を持っているのか。都市伝説みたいな人ですが、『The Room』の後にも作品は作ってるようです。なんか調べれば調べるほど色々面白い話がゴロゴロ出てくるので今後も注目していきたいです。

ディザスター・アーティスト

フランス映画「12か月の未来図」の感想。フランス製金八先生…ではない?移民と教育の問題

12か月の未来図

先日フランス映画の「12か月の未来図」を見てきました。

ふわっとした邦題ですが、なんかこのふわっとした感じもしっくりきてるのかもしれません。

 あらすじ - 12か月の未来図

パリの名門校に務めるベテラン教師のフランソワ。ある日自分の発言をきっかけに、郊外の中学校に一年間転勤することになる。受け持つことになったクラスは成績があまり良くなく問題児だらけだが、なんとか意欲を持たせようと奔走していく。

 登場人物 - 12か月の未来図

 

フランソワ - ドゥニ・ポダリデス

以降内容に触れています!ネタバレ絶対ダメな方お気をつけください。

 

 

なんだか異質な問題児学園もの - 12か月の未来図

ベテラン教師のフランソワは会話の中で何気なく、郊外の学校にも若い教師だけでなく経験豊富な教師を派遣した方がいいのではないか?といってしまい、その発言を聞いていた教育委員会の女性にじゃああなたがいきましょ!となってガンガン計画を進められていきます。

それでまあなんか若い教師たちの中で肩身も狭く、ちょっとええやんと思った女性は同僚と付き合ってたり、早速問題児クラスのいうことのきかなさに面食らったりと色々お見舞いされます。

でも甘やかさずに真摯に授業を重ねるうちになんかだんだん生徒もちょっとは話を聞くようになってきます。

あらすじだけ書くとすごい王道なパターンに見えますよね。

でもなんか独特な空気がある…なんでかというとそれは革命的な出来事があまり起きないという点からかもしれません。

金八先生だったら教師が問題を起こした生徒をかばったりしてそっから急に心を開いたりするあの感じがないです。

出来事自体はないこともないですがそれが教師と生徒の関係性を180度変えるほどの影響力は持ってない感じなんです。

この映画の中では人間関係の変化はドラマチックな展開が伴う訳ではなく、自然な温度感でじんわりじんわり変わっていきます。

そういう意味でいうとドキュメンタリーのようで超リアルなんです。

 

 

少しの忌避意識 - 12か月の未来図

フランス郊外にはアラブ系や黒人系の人々が多く住んでいて、そこには少し複雑な人種問題があるようです。

貧困層が多く、中には治安があまり良くない地域もあるようで、初めはフランソワも少し警戒心を持っていました。

教室で携帯がなくなったときなんか、誰が盗んだんだ!と疑いますが、結局自分が持っていたということもありました。知らず識らずのうちに偏見を持ってしまっていた自分にハッとします。

こういう描写は移民の歴史があるフランスならではかもしれません。

この移民問題に触れた作品は今までも多く制作されてきたそうで、近年だと「奇跡の教室 受け継ぐものたちへ」や、「オーケストラ・クラス」は記憶に新しいです。

※「奇跡の教室 受け継ぐものたちへ」はU-NEXTの見放題作品です。

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王道青春要素もあります - 12か月の未来図

授業中も大声で騒いだり寝たり、おやつ会でハッパ入りケーキを持ってきたりとやりたい放題な生徒たちですが、なんか憎めないんですよね。

若い先生たちの間では超悪いヤツらみたいにあつかわれていますが、結局は思春期の子供なんですよね。問題児のセドゥも好きな女の子のことばっかり考えてて、その子のことになると割と素直になったりとか。

人種問題というと重たいテーマのように思えるかもしれませんが、ちゃんと学園もの的な微笑ましい部分もあるのでご安心を。

 

 

ベテラン教師、フランソワの人間味 - 12か月の未来図

この主人公のベテラン教師、フランソワのキャラクターが案外効いてると思います。

一見あんまり個性がないようにも見えますが、実はこれこそTHE生身の人間なのではないでしょうか。

ブルジョワ一家に育った彼ですが、型にはまった超エリートにもなりきれず、かといってめちゃくちゃ大胆な教育法を編み出したりするわけでもありません。

でも暑苦しすぎない熱意と柔軟な思考を使って、彼なりのやり方で生徒たちの心を掴んでいきます。

表にはそんなに出さないんですが、そのはみ出ちゃってる部分の優しさと人間味が、生徒にも受け入れられてたんだ…ってわかるのがもう最後の最後なんですけどここは正直涙腺緩みました…。

 

あまり派手な作品ではありませんがじんわり余韻が残るいい映画でした。

淡々としてますがえも言われぬ心温まる気持ちになるので、ぜひ心が荒んでいる時に見て欲しいです。

 

 

【ネタバレ】ドイツ映画「希望の灯り」の感想。何気ない日常に光が差していく。

希望の灯り


先日ドイツ映画の「希望の灯り」を見てきました。
時代に取り残された化石のような人々が毎日を丁寧に過ごしていく、そんな日々がだんだんと美しく見えてくるような素晴らしい映画でした。

 

 あらすじ - 希望の灯り

試用期間を設けて深夜のスーパーマーケットの商品陳列係に採用されたクリスティアン。なかなか業務に慣れることができない彼だが、ブルーノを初め周囲の暖かいフォローの中でだんだんと仕事を覚えていく。そんな中、クリスティアンは同僚のマリオンにだんだんと惹かれるようになっていく。

 

 

 登場人物 - 希望の灯り

クリスティアン - フランツ・ロゴフスキ

マリオン - サンドラ・フラー

ブルーノ - ペーター・クルト

ルディ - アンドレアス・レオポルト


すこし謎めいた主人公クリスティアンを演じるのはフランツ・ロゴフスキ。ミヒャエル・ハネケの「ハッピーエンド」などにも出演しています。最近この方のでている映画を見る確率が高く、その何考えてるかわかんない感じにだんだん惹かれてきました。クリスティアンが恋をしてしまうマリオンを演じるのはサンドラ・フラー。どこかで見たことがあると思えば「ありがとう、トニ・エルドマン」でものすごく難しい役どころを演じていた女優さんでした。

 

以降ネタバレ含みます!お気をつけください。

 

深夜のスーパーマーケット - 希望の灯り

朝と夜が逆になった人々にスポットライトを当てた本作。私たちの便利な暮らしを支える夜間労働者の人々、人気のない物静かなスーパーマーケットでは、そんな人々の様々な人間模様がうかがえます。このシチュエーションだけでもかなりグッときます。倉庫萌えのみなさま、ぜひ。

 

緩やかに進む日々 - 希望の灯り
一見地味な映画ですが何にも起きないわけではないんですよね。
テンションは高くないですが静かにいろんなことが変わっていく。でもそんなに大きくは変わっていないのかもしれません。

終盤にかけて全身刺青の入ったクリスティアンの過去も少しずつ明かされていきます。ここは少し観客の偏った視点とかも試されているのかもしれません。

そして日々に少しずつ少しずつ希望を見出していきます。マリオンとクリスティアンの微妙な関係にも、少しずつ変化が見えるような見えないような…。
そんなささやかな日々がとてつもなく繊細に丁寧に描かれています。

 

生きていく意味 - 希望の灯り

ネタバレしてします。

 

クリスティアンの研修に付き添って毎日仕事を教えていたブルーノは、自殺をします。まるでクリスティアンが一人前になるのを見計らったように。毎日生きていることが当たり前になってくると、ふと我に帰る瞬間があるのかもしれません。最後に自分の人生にクリスティアンという意味を持たせたかったのかもしれません。でもクリスティアンの生きる毎日を見ていると、人生に意味など必要なのかという気持ちになります。

静かな映画ですが、一人でじっくりと考えることができるような作品で、すごく見応えがありました!
まだ公開中ですのでぜひ、チェックしてみてください。

 

 

 

 

 

【ネタバレ】ベルギー映画「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」の感想。趣味嗜好全開でぶっちぎる。

 

マンディ 地獄のロード・ウォリアー ニコラス・ケイジ

 



今回は私の中の2018年の映画ベスト10には入っている傑作「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」の感想を書きます。
我らがニコラス・ケイジ主演ということで大抵の人は察しが付くと思いますが、いわゆるB級映画だと思うのが普通でしょう。確かにB級ではないと言ってしまうのは嘘になるかもしれません。
しかしその言葉で切り落とすほどこの映画は一筋縄ではいきません。

 あらすじ - マンディ 地獄のロード・ウォリアー

山奥にひっそりと暮らすレッドとマンディ。ある日道を歩いていたマンディはカルト集団に誘拐されてしまう。その末、カルト集団はレッドの前でマンディを惨殺し、怒りに燃えたレッドは復讐へと繰り出すのだった。

 

 登場人物 - マンディ 地獄のロード・ウォリアー

監督 -   パノス・コスマトス
ニコラス・ケイジ - レッド
アンドレア・ライズボロー  - マンディ
ライナス・ローチ - ジェレマイア・サンド

監督を勤めるのは『ランボー 怒りの脱出』などの故ジョルジ・パン・コスマトスの息子であるパノス・コスマトス。妻のマンディは『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のアンドレア・ライズボローが演じました。

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以降少し詳しめに内容に触れています!ネタバレダメな方お気をつけください!
ただ見たのが結構前なので若干違ってる部分あるかもしれません…

 

 でっぷりボディのケイジ - マンディ 地獄のロード・ウォリアー

筋肉の上からちょっと脂肪がついてる感じで髭ダルマ、山男感満載の今作のケイジ。
もうやることなすことおもろい。それはファニーという言葉からはかけ離れていますが、その半端ない絵力に、映画館で一生爆笑していました。(多分みんな笑っていたはず…!)
特に愛する妻を失い傷だらけになりながら酒を浴びるシーン。悲しみに打ちひしがれているケイジに涙するようなシリアスなシーンのはずが、全然感情移入できません!


でっかいトラのTシャツ着て血だらけで下はブリーフ一丁のケイジがトイレでウオーウオーとか唸っているではないですか!

 

このシーンだけでご飯が進むという方も多いのではないでしょうか。いいもん見せていただきました。

 

 ポエティックなカルト集団 - マンディ 地獄のロード・ウォリアー

非常によくわからん理由でマンディに執着するカルト集団。誘拐したしまいに自作の音楽の入ったテープを聞かせてきます。しかもなぜか教祖は露出狂で…もうわけがわかりません。そしてそれがなぜかマンディのツボに入って爆笑!→マンディ惨殺の流れです。
もはや何を見せられているんだ?!
このカルト集団もかなりふわふわした理由で色々やってくるのでおもろいです。

 随所に散りばめられる作家性 - マンディ 地獄のロード・ウォリアー

ケイジの武器となる斧のデザイン一つとっても、リアリティとかいうよりはもう好きなものを好きなだけという思考が伺えます。
章ごとに挟まってくるアニメーションであったり、小手先ではない映像自体の美しさからもそのこだわりの強さが見えてきます。
なんというか邪念がありません。あざとさがありません。作りたいものを思いっきり作るという気概が感じられました。現代社会から隔離された独自の世界観が見事に再現されていました。



 随所に散りばめられる作家性 - マンディ 地獄のロード・ウォリアー

B級さにすがることなくあくまでも大真面目にシリアス路線をいっているというところがたまらんのです。
荒削りなストーリーを包み込むような丁寧な映像技術があるからこそ、この映画は単なるB級映画ではないと考えます。
映画館で見たときの感動といったら…その轟音とドラッギーな映像にガンギマリでした。
こんな映画は好きな人だけ見ればいいと思う反面、普段こういうの見ないワという人にも見ていただき、ケイジの良さを普及したい気持ちもあります。

気になった方はこちらから↓

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アメリカ映画「グリーンブック」の感想。人の優しさを信じることは偽善か。

グリーンブック


先日レイトショーで2019年アカデミー賞作品賞を受賞した「グリーンブック」を見てきました。
一言で言うと感動超大作というよりはゆるくてほっこりする話という感じでした。この映画の作品賞受賞に関してはアカデミーの体制が問われたりと様々な論争を呼んでいますが、早速どんな作品か書いていこうと思います。

 

 あらすじ - グリーンブック

白人だが貧しい育ちのトニー・リップはクラブの用心棒のような存在。クラブが長期休業するため短期間での職探しをしていたトニーは、黒人のジャズピアニストのドクター・シャーリーのコンサートツアーに同行する運転手として働くこととなる。

 

 登場人物 - グリーンブック

トニー・“リップ”・バレロンガ - ビゴ・モーテンセン

ドクター・ドナルド・シャーリー - マハーシャラ・アリ

ドロレス - リンダ・カーデリニ

オレグ - ディミテル・D・マリノフ

 

以降内容に触れています。浅めですがネタバレ絶対ダメな方お気をつけください。

 

みんな大好き友情モノ - グリーンブック
日本では恋愛映画より友情映画が流行る傾向があるような気がするのですが、本作ももれなくこれに尽きます。人種の違う2人の男性が、旅を通じて一緒に過ごしていく中で、純然な人と人のコミュニケーションに立ち返るというものです。
何と言ってもこのキャラクター2人がベタだけどみんなが求めている感じなんです。うますぎて小憎いくらいです!
まずトニーのキャラクター、ガサツで不器用でちょっとデリカシーに欠ける部分もあります。くせものっぽい彼ですが根は奥さん思いのいいやつで割と素直なやつです。
反対にドクは繊細で教養のあるちょっとプライド高い感じのキャラクター。
この2人がお互いの違った個性で、お互いを助け合っていくというストーリーになっています。

グリーンブックは白人を喜ばせるための映画なのか - グリーンブック

鑑賞後は心が温まりましたし晴れやかに気分になったわけですが、結構白人を喜ばせるための典型的な黒人利用映画だというような意見も多いようです。60年代の差別の色濃いアメリカの状況を描いて、まるで現在は差別がないかのように見えると。
うーんそういうものなんかなあ…
私個人としてアメリカの歴史や人種差別に詳しくないのでここをはっきりどうこう言えるものではないのですが。

一応自分の中で一つの答えにたどり着いたのは、「最強のふたり」の時と似てるよなあと思って、あ、そういうことかと考えました。


グリーンブックと最強のふたり - グリーンブック

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最強のふたり」は障害のある白人男性とその世話係の黒人男性の話でしたが、公開当初はそのブラックジョークの不謹慎さに批判もありました。
しかし、この映画はあくまで「最強のふたり」についての映画なのです。
全ての障害者の人のための映画でもなければ、黒人の人権保護のための映画でもありません。
たまたまこの2人だからうまくいったという映画ですね。別に全ての障害者にブラックジョークを言ってもいいという意味ではないのです。嫌がる人もいるし嫌がらない人もいるというだけの話ではないでしょうか。
グリーンブックもそうで、これを全ての黒人差別の歴史に当てはめるとか、白人は全員根はいいやつだとか言いたいわけではなくて、トニーとドクがたまたま上手いこといったというだけではないでしょうか。

人の優しさを信じてみたい - グリーンブック

人の根っこの善良な部分をとりあえず信じてみたい、という映画なんだと思います。そうすればうまくいく例だってあるはずさ、はなっから分かり合えないなんて思わないで、という映画なんではないかなと思いました。そう考えるととても素敵な映画だったと思います!

ちなみに鑑賞後はサントラ聴きまくってます〜音楽もいいのでぜひ

【ネタバレ】アイスランド・フランス・ウクライナ合作映画「たちあがる女」の感想。予想外の骨太さ、ほぼランボー

たちあがる女 ハットラ

先日「たちあがる女」をみてきました。
予告編を見る限りシュールっぽい雰囲気は伝わってきていましたが、みてみるとかなり裏切られました。いい意味で。

早速どんな映画なのかご紹介させていただきます!

 

 あらすじ - たちあがる女

合唱団の指揮者として働くハットラには、ある秘密があった。彼女は国の続ける環境破壊に立ち向かうべく、単独で環境活動家として活動していたのだった。計画を遂行すべく行動し続けていたある日、何年も前に申請した養子受け入れが実現することになる。母親になることを決意したハットラは計画を終わらせるべく準備に取り掛かる。

 

 登場人物 - たちあがる女

ハットラ/アウサ - ハルドラ・ゲイルハルズデッティル

ズヴェインビヨルン - ヨハン・シグルズアルソン

バルドヴィン - ヨルンドゥル・ラグナルソン

ニーカ - マルガリータヒルスカ

 

以降詳しめに内容に触れてます!ネタバレダメな方お気をつけください。

 

最強のおばちゃん- たちあがる女

わかんないんですけど多分ランボー的なやつなんです。ランボーといえば目を焼かれるというエピソードしか知らないのですが、見ている間に多分これそういうやつだ…と確信しました。
オーガニック系の独り身女性ががんばる的な話を想像していた私ですが、ん?ちょっとがんばりすぎじゃね…?と思っていたら後半になるにつれて修羅の如く任務を遂行していくのでちょっともう何を見ているのかわからなくなりましたが最高でした。
監視から逃れるために泥水の中に潜り、体温をレーダーで悟られても大丈夫なように羊の死骸をかぶる。黙々と淡々と、己のすべきことをこなしていく孤独な修羅。こんなに最強のおばちゃんってかつていたでしょうか。もう後半はセリフなんかほぼないです。静かに怒れるおばちゃん、めっちゃりりしい。

ハットラの心理状態としての楽団- たちあがる女

ちょっと演劇っぽさのようなものも感じます。それが冒頭からハットラに付いてくる楽器隊と歌唱団なのです。多分ハットラの心理状況に合わせてBGMを演奏しているのですが、家の中のせっまい場所でも窮屈そうにしながらも演奏しているコミカルな存在です。ハットラがアイコンタクトをする場面もあり、演出と映画の中の現実の間を行っているような新しい位置付けが面白いなと思いました。

 

おばちゃんの双子 - たちあがる女

そんな感じで主人公のハットラがかなり骨太でツワモノなのですが、このハットラの双子の姉・アウサもだいぶやばいキャラクターです。
ヨガの先生として働く彼女はちょっとスピリチュアル入ってます。そして、ハットラと全く同じ役者さんが演じております。なんかパラレルワールド感。
あんまり映画の中で子供以外の双子って出てこないような気がして、グレムリン2の科学者を思い出しました。

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双子という設定がストーリーに生かされるのかなどうなのかなと気になっていましたが、後半であっさり回収されるのでその辺りもチェックしてみてください。

いい人しか出てきません- たちあがる女

政府側の人とかはともかく、ハットラの周りの人たちは全員ハットラを助けてくれます。
他意のない善意で溢れています。いいですね、ほのぼのします。



おおらか、人間味、ステレオタイプな女性像の破壊 - たちあがる女
あんまりおばちゃんおばちゃん言ってると怒られてしまいそうですが、よくあるフェミ風映画じゃないんですよ。真の意味でのフェミというか。
はっきり言って「強い女性」とか「女は強し」「母は強し」みたいな映画大っ嫌いなんですよ。強いんじゃなくてあんたがたが押し付けたぶん我慢してるんだよ。
その辺りは藤子・F・不二雄先生の「コロリころげた木の根っ子」を読んでください。
そういう意味ではハットラめっちゃいいんです。
プールの更衣室での着替えもいい意味でなんの色気もなくてたくましくて、合唱団で指揮をしているシーンですらちょっと狂気じみて見えてきます。顔の抑揚がすごい。
でも別に女性であることに否定的なわけではなくて特に性別にとらわれず自然体に生きてる感じなんです。今まで独身だったことにも、特に映画内では触れることはありません。そしてそれを悲観しているわけでもありません。
そして自然と女性であることを生かして、監視の目をすり抜けたりするところもなんとも愛らしいです。もちろん色仕掛けじゃありませんよ。
そんな感じの愛すべきおばさん、みていてとても楽しかったです。

よければまだ上映中ですのでぜひ。